日時 平成28年9月3日(土)10時~14時30分
場所 歯科医師会館(東京 九段)
主催 日本歯科医学会
①「光学機器による口腔粘膜疾患の解析:腫瘍の可視化」
東京歯科大学千葉病院 口腔顎顔面外科学講座 森川貴迪 先生/柴原孝彦 先生
白板症/扁平上皮癌をはじめとする口腔粘膜病変に対して、波長400~460nmの青色光を照射し、その反射光を観察することにより、補助診断および切除範囲の設定に関する試みがなされている。正常組織への照射では自家蛍光が確認されるが、コラーゲンの架橋構造が破壊された異形成上皮では蛍光可視の低下が生じる現象を利用した解析で、患部に非接触で無侵襲、繰り返し確認が可能という利点を有する。また、反射光の変化を画像解析し、定量的に評価する事も可能。
さらに照射器はハンディタイプにつき、一次医療機関や訪問診療などにおいて、口腔癌のスクリーニング検査として有用(早期発見/早期治療につながる)。
②「歯科領域への超音波ガイド下神経ブロック導入による疼痛管理法の開発」
東京医科歯科大学 麻酔生体管理学分野 村松朋香 先生/久保田一政 先生/深山治久 先生
超音波画像機器の向上に伴い、四肢・体幹の末梢神経ブロックを超音波ガイド下に行うことで、神経損傷や血管への誤穿刺などの偶発症を防止し安全で成功率の高い手技が可能となった。口腔領域においては、下顎孔/眼窩下孔などに対し神経ブロックが行われるが、偶発症の観点からそれを敬遠する場合も多いとされている。これらを鑑み、安全で確実な術中鎮痛を目的に、口内での使用を考慮した小型のプローブが開発され、改良が重ねれれている。
③「紫外線LEDを用いた歯科治療用機器の開発」
国立長寿医療研究センター 歯科口腔先進医療開発センター 角 保徳 先生
ノーベル賞を受賞した名古屋大学 天野 浩 教授らにより紫外線LEDが開発されたことを受け、口腔内に直接照射可能な「紫外線LED治療装置(波長254nm)」の試作機が開発された。歯周病治療/歯内療法/癌治療など各疾患への応用が期待される。
④「NR4A1を標的とした薬物性歯肉増殖症の新規治療法の開発」
広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 歯周病態学研究室 松田真司 先生/岡信 愛 先生/加治屋幹人 先生/藤田 剛 先生/栗原英見 先生
Ca拮抗薬/抗てんかん薬フェニトイン/免疫抑制薬シクロスポリンを内服する患者にみられる歯肉の線維性増殖症は、高齢化や医学の発展に伴い増加している。治療法は、口腔衛生の徹底/薬の変更/歯肉切除などであるが、薬の変更が困難な場合や歯肉切除後の再発も稀ではない為、発症メカニズムの解析と新規治療法の開発が求められている。
近年、核内受容体NR4A1の障害がTGF-βシグナルを促進し全身の線維症を増悪させていることが明らかとなった。薬物性歯肉増殖症においても、歯肉組織中のNR4A1障害が起きているとの仮説のもと、マウス歯肉増殖症モデルが作製され、遺伝子レベルでの解析が進められている。
⑤「ヒトiPS細胞に低酸素培養を応用した再生医療用骨組織の作成」
東北大学大学院 歯学研究会 分子・再生歯科補綴学分野 大川博子 先生/江草 宏 先生
マウスiPS細胞においては、著明な骨形成能を有する三次元骨様構造体の分化誘導法が確立されたが、ヒトiPS細胞に応用する為には、低酸素状態を模倣するなど培養条件を更に検討し生体内に近い環境を再現する必要がある。これら骨芽細胞の分化機序を解明することにより、骨再生材料の開発、ひいては再生医療の発展が期待される。
⑥「高感度X線画像センサーでの連続撮影による、リアルタイム透視根管形成システム」
東北大学大学院 歯学研究科 石幡浩志 先生 ほか
デンタルフィルム1枚分の線量で100フレーム以上の連続撮影が可能な高感度/高解像度の「CdTe半導体X線受線センサー」を用いることにより、これまで目視不能だった天然根管内におけるNi-Tiファイルの挙動ならびに根管形成/充填の状況をリアルタイムに観察することに成功した。従来のデジタルX線センサーでは検出が困難な#10ファイル尖端の造影も可能(先端径100μm)。しかしながら、術者の被ばくを避けるには、手術支援ロボットによる遠隔操作など機械工学分野の応用も必要。
⑦「高齢期における認知機能障害と歯周病との関連を検証することを目的とした大規模前向きコホート研究:藤原京スタディ」
奈良県立医科大学 医学部医学科 地域保健医学講座 岡本 希 先生 ほか
奈良県在住の高齢者2,000名(平均80歳)を対象とした大規模前向きコホート研究により、無歯顎者の軽度認知機能障害のリスクが2.4倍/認知症リスクが2.2倍に上昇することが見いだされた。歯を失う大きな要因である歯周病を予防することは、認知機能障害の発生を遅らせることにつながり、認知症関連の医療/介護費を抑制出来ると考えられる。
⑧「総合病院の入院患者が入院中に発症する肺炎に関する多施設共同研究-医科入院患者約40万人の解析-」
武蔵野赤十字病院 特殊歯科口腔外科 倉沢泰浩 先生/道脇幸博 先生 ほか
手術前後における口腔機能の専門的管理は、術後の誤嚥性肺炎や術後感染を有意に低下させると言われ、近年、悪性腫瘍に係わる手術/放射線治療/化学療法/緩和ケアを実施する際の「周術期口腔機能管理」として保険収載さるに至った。
今般全国16施設に及ぶ地域中核総合病院において、肺炎に関する43万人の大規模調査が行われた。疾患別にみた入院後の肺炎発症率は、平均1.6%だが、脳血管障害では5.1%と高頻度に生じることが分かった。また入院期間は、未発症群23日に対し発症群は52日と大幅に延長され、医療費高騰の一因と考えられた。
現在のところ、「周術期口腔機能管理」の対象疾患は悪性腫瘍に限られ、脳血管障害は対象外につき早急な適応拡大が望まれる。